相続税から弁護士費用は控除できる?債務控除の対象を解説

相続税から弁護士費用は控除できる?債務控除の対象を解説
神谷 智道 税理士
監修 税理士法人アイユーコンサルティング 代表パートナー兼西日本統括

神谷 智道 税理士

2009年福岡の中堅税理士法人に入社。法人・個人の一般事業会社及び特殊法人の顧問業務に従事。その後、北九州の税理士事務所に医業・製造業・小売業・不動産業・飲食用・理美容業・サービス業など幅広い業種の顧問を担当し、企業オーナー等の相続税申告業務も行う。税理士法人アイユーコンサルティングにて企業オーナーの事業承継対策や相続税申告及び相続対策などの多くの資産税業務に従事する。 法人税・所得税・相続税等、各種シミュレーションに基づいた総合的な事前予測・対策を強みとし、企業成長をサポートするため経営者の身近なアドバイザーとして活躍中。

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家族が亡くなり相続が発生すると、弁護士から遺産分割のアドバイスをもらったり、家庭裁判所での調停・審判の代理人として依頼したりする方もいます。弁護士費用がかかりますが、相続税の計算で使う債務控除の対象ではありません。勘違いのないよう、債務控除の対象になるもの・ならないものを具体的に把握しましょう。

相続税の債務控除とはどんな制度?

債務控除とは、相続財産から差し引ける控除のことです。課税価格が減るため、相続税の軽減につながります。

相続財産は現金や預貯金などのプラスの財産だけとは限りません。原則的には「単純承認」といって、プラスの財産もマイナスの財産も相続することになります。しかし、被相続人の借入金や、未払いの医療費まで受け継ぐのは負担が大きいでしょう。そこで、一部のマイナスの財産は債務控除として差し引き可能な仕組みになっています。

債務控除の対象になるもの

以下は、債務控除の対象となるものの一例です。

・金融機関からの借り入れ
・準確定申告に係る所得税や消費税などの税金
・未払いの医療費
・相続発生後に納付した住民税や固定資産税等
・公共料金の未払い金
・葬儀費用
・お布施 など

ポイントは、被相続人が負った債務であり、なおかつ「亡くなった時点での債務であること」です。ただし、以下で説明する債務は対象外になっています。

債務控除の対象にならないもの

・遺産分割を依頼した弁護士費用
・相続税申告にかかる税理士費用
・墓地や仏壇などの非課税財産購入の未払い金
・香典返し費用
・初七日や法事費用 など

香典返し費用が対象外なのは、香典収入が元々非課税だからです。また、法事費用は供養のためにかけるお金で、葬儀費用とは別物なので債務控除できません。

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相続税の計算はさまざまな行程を踏むため、初めて計算する方にとってはハードルが高いかもしれません。ただ、おおまかな流れを覚えることで、おおよその納税額は計算できます。

・相続財産を洗い出す
・遺産総額を求める
・法定相続分で分割したいったんの相続額を出す
・いったんの相続額を合計する
・実際の割合で分割する

先にいったんの相続税を出してから、実際の取得した割合で計算し直すのがポイントです。流れを一つ一つ解説します。

相続財産の洗い出し

まずは被相続人の財産を調べます。預貯金や土地などのプラス財産から、生命保険の死亡保険金や死亡退職金などの「みなし財産」といわれる財産まで全てです。債務控除できるものも明確にしましょう。

申告時に提出する相続税申告書には、「債務の債権者の氏名」や「発生年月日」「弁済期限」などを記載しなければなりません。該当する書類を見て正確に把握しましょう。課税価格が分かったら合計します。

基礎控除を差し引く

課税価格から基礎控除(3,000万円+600万円×法定相続人の数)を差し引きます。法定相続人とは民法で定められた相続人のことで、配偶者・子・親・兄弟姉妹が対象です。配偶者は常に法定相続人ですが、その他の相続人は順位が最も高い人がなります。

順位 法定相続人
第1順位 子(孫)
第2順位 父母(祖父母)
第3順位 兄弟・姉妹(甥・姪)

※()内は代襲相続人

例えば課税価格の合計が1億円で配偶者と子1人が法定相続人となる場合、基礎控除は「3,000万円+600万円×2人=4,200万円」となり、課税遺産総額は5,800万円になります。

いったんの相続税を算出する

課税遺産総額を法定相続分で按分します。法定相続分とは、民法で定められた法定相続人の割り当て分のことです。法定相続人が誰かによって割合は変わります。

法定相続人の組み合わせ 割合
配偶者のみ 1
配偶者と子(孫) 配偶者1/2・子1/2
配偶者と父母(祖父母) 配偶者2/3・父母1/3
配偶者と兄弟・姉妹 配偶者3/4・兄弟姉妹1/4

例えば課税遺産総額1億円を配偶者と子2人で按分すると、配偶者は5,000万円、子は5,000万円(2,500万円ずつ)です。次に、按分した金額ごとに税率・控除を適用し、各法定相続人のいったんの相続税を求めます。

法定相続分の取得金額 税率 控除額
~1,000万円 10%
~3,000万円 15% 50万円
~5,000万円 20% 200万円
~1億円 30% 700万円
~2億円 40% 1,700万円
~3億円 45% 2,700万円
~6億円 50% 4,200万円
6億円~ 55% 7,200万円

【税率・控除を差し引いた結果】
・配偶者:5,000万円×20%-200万円=800万円
・子:2,500万円×15%-50万円=325万円
・子:2,500万円×15%-50万円=325万円

(参考: 『No.4155 相続税の税率』)

各自の相続税額を計算する

法定相続人ごとに求めた相続税を合算し、実際の相続分で按分し直します。【税率・控除を差し引いた結果】の事例で、実際には配偶者60%、子2人で20%ずつ取得したとすると、次の計算になります。

・相続税額合計:800万円+325万円+325万円=1,450万円
・配偶者:1,450万円×60%=870万円
・子:1,450万円×20%=290万円
・子:1,450万円×20%=290万円

なお配偶者は、課税対象のうち「1億6,000万円」または「法定相続分」のどちらか多いほうまでは相続税がかからない「配偶者の税額軽減」を適用できます。

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適用できる控除や特例があれば、納税額を減らせます。また、できるだけ相続税を抑えたいなら、生前贈与を利用した節税も有効です。非課税財産も把握しておかなければいけません。どれも相続税を計算する上で大切なポイントなので、誤解のないようにしましょう。

相続財産には非課税財産がある

相続財産の中に非課税財産があるかどうかを確認しましょう。非課税財産とは以下のような財産です。

・墓地や仏壇など、日常礼拝の対象であるもの
・相続人が国や地方自治体、公益法人などに寄付したもの
・死亡保険金(「500万円×法定相続人の数」で計算)
・死亡退職金(「500万円×法定相続人の数」で計算) など

例えば死亡保険金が2,000万円で法定相続人が2人の場合、「2,000万円-500万円×2=1,000万円」で半分が非課税になります。

相続税には控除や特例を活用できる

相続税に適用できる控除や特例はいくつかあります。下記の控除・特例を使うことで納税額を軽減できます。

名称 控除できる金額
贈与税額控除 相続開始前に贈与された財産に課された贈与税額をもとに計算した金額
配偶者の税額軽減 配偶者が取得した課税遺産のうち「1億6,000万円」または「法定相続分」のどちらか多い金額
未成年者控除 満18歳(令和4年3月31日以前の相続については20歳)になるまでの年数あたり10万円
障害者控除 満85歳になるまでの年数あたり10万円(特別障害者の場合は20万円)
相次相続控除 一次相続で納税した金額(今回の被相続人が支払った金額)のうち、一定金額
小規模宅地等の特例 土地の価額に対して80%または50%(一定の面積まで)

 

生前贈与を利用した相続税対策も有効

亡くなる前に「贈与」という形で相続人に財産を渡し、相続税を少なくできる制度もあります。

名称 内容
暦年贈与 年間110万円までが基礎控除となる
住宅取得等資金の贈与 父母や祖父母が住宅資金を贈与する場合に一定額(住宅の種類や期間によって異なる)が非課税となる
教育資金の一括贈与 父母や祖父母が子・孫へ教育資金を贈与する場合に1,500万円が非課税となる
結婚・子育て資金の一括贈与 父母・祖父母が結婚・子育て資金を贈与する場合に1,000万円が非課税となる

なお、暦年贈与は同じ金額を長期にわたって贈与していると、「計画的な税逃れ」とみなされる恐れがあります。そのような判断されないためには、贈与契約書を作成したり、贈与する金額を変えたりするなどの工夫も必要です。

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相続では多くの手続や話し合いを進めることになります。被相続人や相続人の負担を減らすため、弁護士に遺言書の作成をお願いしたり、遺産分割協議の代理交渉をしてもらったりすることもあるでしょう。ここでは、相続で弁護士に依頼する主な内容と費用相場を紹介します。

分割協議の代理交渉

相続では、普段付き合いのない親族と遺産の分割割合でもめることもあります。話がまとまらなければ、家庭裁判所の調停・審判も考えなければなりません。遺産分割協議を弁護士に代理してもらうことで、相手の言い分に対して法的な観点からアドバイスをもらえたり、感情的にならずに済んだりします。

弁護士費用の相場は、着手金として20万円~50万円、報酬として100万円~200万円ほどです。ただし、報酬金は遺産の多さに応じて変わるのが一般的です。

遺言書作成

弁護士に遺言書の作成を依頼すれば、後々トラブルになりにくい遺言書が作れます。万が一トラブルに発展した場合でも、弁護士なら適切に対応してくれるのも魅力です。

遺言書作成は10万円~20万円程度の事務所が多いでしょう。ただし、財産の状況や相続人との関係が複雑など、遺言の内容によっては報酬が変わることもあります。

遺言書の執行

遺言書の作成と合わせて、弁護士を遺言執行者に指定する方もいます。遺言の執行とは、遺言書に従って相続財産を分配することです。遺言書の内容が複雑であっても、弁護士が遺言執行者ならスムーズに手続きを進められるしょう。また、他の相続人との争いも避けられます。

弁護士に遺言執行者を依頼する場合の目安は、遺産総額の1%~3%です。遺産総額が1億円なら100万円~300万円程度になります。

相続放棄

相続放棄とは一切の相続権を放棄することです。プラスよりもマイナス財産のほうが明らかに多い場合に選択するケースが一般的です。相続放棄は、相続が発生した日から3か月以内に家庭裁判所へ申し立てる必要があるため、スピード感が求められます。

相続放棄の弁護士報酬の相場は10万円程度です。弁護士に依頼することで、債権者からの催促等の代理をしてもらえます。

遺留分の請求

遺留分の請求を弁護士にお願いするケースもあります。遺留分とは、法定相続人に保証された取り分のことです。

例えば夫・妻・子2人(長男・次男)の家族で、夫が亡くなったとしましょう。夫の遺言書に「妻と長男だけに財産を相続させる」と書いてあれば、次男は一銭も相続できないことになります。そのような不条理をなくすために、法定相続人には最低限度の取り分が保証されているというわけです(ただし法定相続人全員が使えるとは限りません)。

遺留分請求を弁護士に依頼する場合は、着手金は10万円~30万円、弁護士報酬で5%~15%上乗せで支払うのが一般的です。

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弁護士は法的な観点から相続に関わる依頼者をサポートしてくれますが、弁護士費用については以下の点に注意しなければなりません。

・費用は高額になるかもしれない
・費用は相談者が負担する
・費用は控除できない

依頼内容が多ければそれだけ金銭的負担が増えてしまいます。納税のことも考え、できるだけ費用は抑えたいものです。

弁護士費用の支払いは高額になる

弁護士費用は高くなる傾向にあります。中にはプロに依頼するまでもない内容もあるため、自己解決できるならそのほうが望ましいでしょう。

それでも弁護士に依頼したい方で、支払いが難しい場合は法テラスの立て替え制度を利用する手もあります。ただし、収入要件や資産要件などの条件をクリアしなければなりません。そろえる書類も多岐にわたるため、相続で忙しい方はハードルが高いと感じることもあるようです。

弁護士費用は相談者が負担する

弁護士費用は相談者が支払うものです。他の相続人に支払い義務はありません。例えば自分以外に相続人が5人いて、5人の総意で弁護士に依頼したとしても、弁護士と契約締結した相談者が支払うのが原則です。

弁護士費用をめぐって他の相続人ともめたくない場合は、事前に書面で合意しておくのがよいでしょう。または、弁護士との相談の段階でアドバイスを求めて対応を練っておきます。

弁護士費用は控除できない

弁護士費用は相続財産から控除できません。家族が亡くなった後に発生した弁護士費用で節税対策はできないため、勘違いのないようご注意ください。

過去には国税不服審判所にて「遺言執行者(弁護士)の費用は控除できるか否か」が争われています。そこでは遺言執行者の報酬は「相続財産から金銭を支払うべき費用であるから、相続税の計算における財産から控除することはできない」という判断が下されました。

できるだけ高額な費用を支払いたくない場合は、自身で手続きをしたり、他の士業に相談したりして対応してはいかがでしょうか。

(参考: 『(平13.12.25裁決、裁決事例集No.62 412頁)』)

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相続税の計算で控除や特例を適用できるかどうかは重要ですが、弁護士費用は債務控除の対象ではありません。弁護士にしかできないこともあり、依頼するメリットもありますが、費用面を考えて慎重になる方も多いでしょう。

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神谷 智道 税理士
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